広帯域チャネルを多数の個別の狭帯域サブチャネルもしくはサブキャリアに分割
MIMOによる送信機および受信機双方の複数のアンテナが通信性能を大幅に改善します。単一アンテナ送受信機(SISO)を使用した同様のシステムよりも大きな利点があるため、多くの近代的な通信規格、特に消費者スペースでの通信規格は、マルチアンテナ(MIMO)技術を採用しています。
送信機および受信機におけるマルチアンテナは、SISOシステムには存在しないシグナリングの自由度を実現します。これは空間自由度と呼ばれるものです。空間自由度は「ダイバーシティ」または「多重化」のいずれか、もしくはこれら二つの組み合わせにおいて活用することができます。簡単に言えば、ダイバーシティは冗長性を意味します。
同じ信号を受信しようとするマルチアンテナは、ダイバーシティの簡単な例の一つです。二つのアンテナで受信した信号は、アンテナ間で相関のないノイズによって破壊されるので、二つの信号を組み合わせることにより、より良い品質の信号を再構成することが可能です。言い換えるならば、同じ対象物を二つの異なる見地から見ることにより、その対象物についてより豊富な情報を入手できるということです。ダイバーシティはまた、時空間符号化(STC)技術を用いることにより、複数の送信アンテナを使って実現することも可能です。
二つ目の重要なMIMO技術は、空間多重化です。空間多重化は、一対のMIMOの送受信機が、使用する帯域幅または送信出力を増加させることなく、スループットを増加させることを可能にします。多重化は、スループットを送信もしくは受信アンテナの数のいずれか低い方に対して直線的に増加させます。送信機は、それぞれのアンテナから異なるビットストリームを搬送する信号を送信します。それぞれの受信機アンテナは、送信された信号の線形結合を受信します。無線チャネルは、ある種の行列となり、送受信アンテナアレイの幾何学的構造および環境に存在する散乱体/反射体の機能があります。
一対のMIMO送受信機が散乱の多い環境内で稼働する場合、チャネル・マトリックスは可逆となり、その結果さまざまな送信アンテナ口径から送信される異なるすべての信号を受信機が復号化することが可能になり、多重化利得をもたらします。MIMOシステムが提供することのできるダイバーシティと多重化利得の間にはトレードオフが存在します。一般的な一対のMIMO送受信機は、瞬間的な無線チャネル条件に基づいて、ダイバーシティ−多重化トレードオフ曲線上の動作ポイントを自動で見つけ出します。
固有ビームフォーミングは、リンクの送信側および受信側の双方で行うことができます。古典的なビームフォーミングは、高利得アンテナの使用に似ていますが、異なる方向にアンテナを指向させる必要はなく、固有ビームフォーミングは、アンテナの方向もしくはアンテナ近傍の散乱要素の影響を受けることなく、同じ利得を達成します。ビームフォーミングの考え方が導入されると、多くの人はフェーズドアレイレーダーを思い浮かべますが、本当は、フェーズドアレイとは、複数のアンテナ素子を使用して、異なる方向でのアンテナクラスタの指向性を調整して、送信または受信アンテナ「ビーム」を形成する方法になります。
非常に高価な軍事システムで使用されているため「フェーズドアレイ」は高度な無線技術であるかのように思われますが、実際には、現代のMIMOシステムを使って行うことのできるビームフォーミングよりもずっと簡単なビームフォーミングの形態です。フェーズドアレイシステムは、アナログ領域での位相シフトと信号の合成の限られた能力を使ってビームフォーミングを行い、チャネル帯域幅が増加すると性能上の利点が低下し、また一般に重大な劣化の原因となる散乱体もしくはマルチパスのない純粋な見通し(LOS)状況でのみ稼働するという事実を含むいくつかの重大な欠点を持っています。
MIMO固有ビームフォーミングは一方で、すべてのアンテナからの信号を、洗練されたデジタル信号処理(DSP)を使用することのできるデジタル領域に変換させます。この結果、実質的には、直交周波数分割多重(OFDM)システムのそれぞれの狭帯域サブキャリアに対して独立して固有ビームフォーミングを行うことが可能です。特に、MIMOシステムは、固有ビームフォーミングとして知られるある種のビームフォーミングを利用することができます。固有ビームフォーミングは、三次元空間での単純なビームの形成に限定されるものではありません。これは、散乱物やマルチパス反射による悪影響を受けません。複数の反射を伴う非見通し(NLOS)状況で信号を受信した固有ビームフォーマーは、個別の反射に対応した複数の方向での利得を増加させる有効なアンテナ・パターンを形成することができます。デジタル信号処理を使用して、MIMOシステムは、パケットごとにこれらのパターンを適応させる能力を有しています。
時空間符号化は、複数のアンテナを介して送信し、マルチアンテナダイバーシティ受信を使用して達成できるものと同等の利得を達成するために利用することのできる仕組みです。時空間符号化は、通常単一アンテナから送信されるデータを取りこみ、バックグラウンドノイズからデータを分離する受信機の能力を改善するという方法により、同じ情報内容を数学的に変更されたバージョンを追加アンテナで送信できるようにするための信号処理符号化技術を適用することを意味します。時空間符号化は、受信ビームフォーミングもしくはダイバーシティ受信と自然に適合させることができます。
たとえば、車載無線が容易に4個のアンテナの搭載できる一方で、小型の携帯ユニットについては2個もしくは1個のアンテナに限定されるという状況を考えてみてください。携帯ユニットが単一のアンテナから送信している場合、車載ユニットは受信状態を改善するために受信機ダイバーシティもしくはビームフォーミングを使用することができます。時空間符号化は、携帯ユニットが単一の受信アンテナに限定されている場合に、車両に対して4個すべてのアンテナで送信して同様の利得を達成する方法を提供し、この結果、リンクが対称となり、双方向通信にとって非常に役立つものとなります。
空間多重化は、多くの人々が信じ難く、まして、把握は難しいと思う技術です。このMIMO技術は、実際に異なるアンテナから、それぞれが同じ中心周波数で動作する複数の固有の情報「ストリーム」を送信します。少なくとも送信されたストリームと同じ数のアンテナを使用する受信機は、それらを個別に復号することができ、その結果、固定のチャネル周波数帯で流されるデータの量が増加します。4x4 MIMOシステムは、最適な条件下で4個のストリームを達成することができるので、結果として同じチャネル帯域幅でのSISOシステムのデータの4倍のデータを送信することができます。
4個のストリーム(A, B, C, D)を送信している送信機があるとき、これらのストリームは空中で合流し、w, x, y, zをアンテナごとに異なるマルチパスリッチ・チャネルに起因するチャネル歪みとした場合、wA+xB+yC+zDという錯綜した一つの組み合わせとなって4個の受信アンテナそれぞれに届きます。ここでは、線形代数の授業で多くの人が記憶している可能性のある4個の未知数を持つ4個の方程式を解くことによって元のA, B, C, Dストリームを回復させるために、w, x, y, zというこれらのチャネル効果すべてを受信機が特徴付ける非常に洗練されたMIMOデジタル信号処理が行われます。
MIMO空間多重化には、より高位の配位に行くほどリンクの堅牢さが低下するという事象を伴わずにスペクトル効率(チャネルのHzあたりの毎秒ビット)を増加させることができるという利点があります。たとえば、2個のストリームを利用することで、かなり堅牢なFEC符号化レートを持つ16-QAMで、4ビット/秒/Hzに近いレートを達成することができます。MIMOがない場合、システムは、同じスループットを達成するために、64-QAMおよびより堅牢性の低いFEC符号化率を使用する必要があり、これは一般に範囲が大幅に制限されるかまたはより高い送信出力を必要とします。
個別に利用するかいくつかを組み合わせるかにかかわらず、これらの技術はすべて、必要となる送信出力を抑え、より広い範囲で、より高いノイズ耐性もしくはより高いスループットという点において、測定可能な利点を提供してくれます。
”インフラレス”ネットワークを介した音声、データ及び映像のストリーミング
セルフフォーミング/セルフヒーリングは、MANETシステムの重要な特徴の一つです。真のメッシュネットワークでは、無線局はいつでもネットワークに加入または離脱するこができ、ノードがお互いに関連しながら移動するのに合わせて、ネットワークはそのトポロジーを連続して適応させます。
これは、ネットワークの制御を監視するために必要な中心となる「マスター」ハブ無線局がなく、たとえ一つ以上のノードを喪失しても通信が維持され続けることになる分散型アーキテクチャを意味します。
リンクアダプテーションは、通信相手のそれぞれの無線局のリンクのデータ速度と堅牢性を最大化するために、各無線局がその伝送パラメータ(コンステレーション、FEC符号化およびMIMO技術)を最適に設定することを可能にするものです。
特定の無線局は、より遠くの無線局との堅牢なリンクを提供するためにわずか2Mbpsの速度を使用する一方で、近接する別の局とは50Mbpsを超えるデータ速度を使用して通信することが可能になります。これらはパケットバースト速度であり、使用するネットワーク内の他のノードに対してチャネルエアタイムの空きを残すことになるので、たとえずっと低い速度のデータストリームにとっても50Mbpsバーストの使用は非常に有効です。
短いリンクではより少ないエアタイムが消費され、距離のあるリンクにおいては、より遅くてかつはるかに堅牢な変調で使用するためのより多くのエアタイムが残されることになるので、高い潜在的なデータバースト速度を持つことは重要です。
適応型ルーティングは、一定の無線局のペア間でデータのストリームを送信する必要がある場合、可能性のある中継パスのいずれを使用するかを判断するメカニズムです。
可能性のある中継局として存在するすべての無線局を使用し、さらに中継無線局の喪失に対して弾力性を持たせるためにダイナミックに適応させることで、セルフフォーミング・セルフヒーリング機能に対応する必要があります。
データのストリームに対する最適なルートを決定するには、ネットワーク上を流れる他のデータについて、ネットワーク内の各リンクのダイナミックな容量とともに考慮する必要がありますから、これは、リンクアダプテーションとも連携して動作する必要があります。
この問題は複雑であり、無線局を通って流れるデータトラフィックに関する情報および各無線局から隣接するノードへのリンク容量に関する情報をすべての無線局が共有する必要があります。この情報共有は、利用可能な貴重なネットワーク・スループットを過剰に消費しないようにするため、情報化された方法で行われる必要があります。
透過的IPネットワークとは、任意の数の標準コンピュータ、IPビデオカメラなどの装置がそれぞれのモバイル無線局と接続し、すべての装置が有線イーサネットのある単独の事務所内にあるかのように、メッシュネットワーク上で通信できることを意味します。
MANETの中でこれを実現する方法はいくつかあります。柔軟性および使いやすさを最大限に引き出すためには、MANETネットワーク全体が単独のレイヤ2ネットワーク・スイッチであるかのように見えるようにすることが最善の選択となります。
つまり、IPアドレスもしくはその他の設定を再設定することなく、簡単なイーサネット・スイッチ上でともに稼働するIPベースの装置の一群がMANET無線局に接続され、新しいワイヤレスモビリティの自由度をもって運用を再開させることが可能であることを意味します。
マルチキャスト・トラフィックは、MANETシステムに対する一連の独創的な挑戦を提供します。基本的な有線レイヤ2スイッチに導入されたマルチキャスト・サポートは、他のすべてのポートのうちのあるポートに入ってきたマルチキャスト・パケットを複製します。
たとえば、1台のIPビデオカメラが一つのポートに接続されている場合、マルチキャストとしてタグ付けされたパケットを使って、そのビデオを送信することになります。さらに、そのスイッチの他のポートのいずれかに有線で接続されたコンピュータは、無線ビデオストリームにタップすることができます。
ネットワーク内の多くの装置は特定のマルチキャストを見る必要がないのにもかかわらず、すべての装置に盲目的にマルチキャストを送信することは、無線ネットワークの限られたスループットを不必要に輻輳させることになるため、この単純な方法はレイヤ2スイッチとして動作する無線ネットワークではうまく動作しないことが判明しています。
さらに高度化したMANETシステムでは、特定のマルチキャスト・ストリームを必要とする装置のみに対してマルチキャストの送信を手動もしくは自動あるいはその両方で限定することが可能となります。
マルチチャンネル・ネットワークは、単独のレイヤ2スイッチのプラグアンドプレイ機能を提供しながら、一つのネットワーク内の複数のRFチャネルもしくは複数の周波数帯でも一つのネットワークが利用できるという、いくつかのMANETシステムの高度な能力の一つです。
この有用性の一つの簡単な事例は、ある周波数で稼働する無線局[GLOVA1] を兵士達が保持し、一方で車両はその周波数に加えて別の周波数帯でも稼働する無線局を持つという状況です。この追加の周波数帯は、より高い電波出力もしくはより高い電波キャッチ力のあるアンテナを使用して車両間の高速「バックボーン」レイヤを提供する場合があります。
いずれの兵士の無線装置も空中で他の兵士の無線局と通信することは可能ですが、異なる周波数の二次レイヤが兵士の周波数の錯綜を軽減する可能性があり、さらにそのネットワークがカバーするエリアを増加させることができます。
※ビデオ内に登場する製品は旧式となります。予めご了承ください。